商慣行是正の動きで無償貸与の対応を停止
2024年4月から配管や給湯器などのガス機器やエアコンなどの住宅設備機器において無償貸与(設備貸与)は法律で抑止される流れとなります。昔からこれらは問題視されておりましたが、この度、経済産業省の資源エネルギー庁は対策に乗り出しました。
給湯器やガス配管などのガス機器や住宅設備機器は大家様からはお金を頂かずにガス会社持ちで設置から修理交換まで当たり前のように対応していました。
特に2023年に全国ニュースでメディアに取り上げられて以降、消費者側の問題意識も高まっていきました。
無償貸与の問題点
住宅における様々な設備をガス会社にお金を支払わず無償で設置してもらう事は、特に集合住宅や建て売り住宅では常態化していたサービスでした。大家様やハウスメーカーの視点からは大きなメリットですが、無償貸与はガス会社の負担を増加させます。これらの負担分は入居者のガス料金設定へと反映させ設備機器代金を消費者から回収していた事が問題視されました。
具体的な貸与設備
設備貸与の一番多い内容はガス配管と給湯器です。他にはエアコンやテレビドアフォン、インターネット導入やウォシュレット便座などガス会社がサポートしてきた内容は多岐にわたります。
経済産業省が強調されているのは、ガス配管と給湯器です。
無償貸与期間
ガス会社と大家様の間では10年〜15年の契約年数を締結していました。集合住宅は15年が一般的です。
これはガス会社が負担した設備機器代金を回収する期間です。
しかし、ガス会社負担を均等割してガス代に上乗せされている訳ではありません。あくまで契約者とガス会社の間での契約内容です。
例えば、10年契約の場合は3650日で設備費用を割って、1日毎で消化しているようなイメージです。5年経過した段階で半分消化した事になります。仮に5年経過時点で解約する場合、残り半分の残債を精算しなければなりません。非常に高いガス料金で入居者が圧迫されている事がわかった場合でも大家様は大きな支出を伴う事になります。これは適切な自由競争とは言えず、ガス業界の特殊なルールによって消費者が圧迫される事に繋がります。
建て売り住宅の問題
建て売り住宅の場合も同様です。ハウスメーカーと提携するガス会社が様々な設備を整えます。ハウスメーカーは安く仕上げる事ができる為、建築費用を抑える事ができます。物件を購入する方はハウスメーカー指定のガス会社との契約を余儀なくされます。高いガス料金と感じても我慢して利用されている方は少なくありません。自分でガス会社を選びたい場合は、設備費用を精算するしかありません。
消費者側が望んだガス会社ではなく、不本意ながら仕方なく利用するしかない状況は問題といえます。
是正されるポイント
この是正の大きなポイントは、消費者負担を軽減させる事を一番の目的と読み取れる点です。
また、小規模ガス事業者は大手ガス事業者よりも予算が確保できずに体力のあるガス会社に金銭的な力技で勝つ事ができないご意見も散見されています。小さな販売店は経済産業省の是正の動きに賛同されている事が感じられます。
3部料金制の徹底
経済産業省の方向性は「設備機器代をガス代に乗せては絶対にダメ」という訳でもありません。
しかしながら、ガスと関係ない設備機器は禁止の方向性を示されているようです。
この3部料金制の場合、検針表の内訳に設備機器代金がいくら乗せられているかを明記し、明瞭会計になるようルールを再定義しており、これまでの無償貸与とは体系的に変わります。
これまではの無償貸与は、大家様に契約年数を求め途中解約の場合は経過年数を考慮し差し引いた金額を精算しなければ解約する事ができない縛りを設けていましたが、これまで通りとはいきません。
経済産業省は、大家様へ契約期間を設ける体制に制限を掛ける為、ガス会社の負担が減る分、ガス料金が安い方向へ動くと期待されているものと推測します。
契約年数で制限を掛けにくくなった為、ガス会社としては設備は条件無しの無料で設置するか、大きく内容を変更させてあサービスが必要になります。
政府の思惑と実態
現場を知っているようで理解できていない政府の動きは新たな問題を浮き彫りにします。
特にこの方針が大きく話題となった昨年2023年以降、集合住宅は大幅な値上げに踏み切られているご相談者数が増えています。関東地域では、基本料金1800円だったものが、2500円まで値上げされているなど、消費者に還元されるはずが逆に値上げ傾向です。この値上げ幅は輸入価格の高騰では説明がつきません。
消費者のガス代負担を軽減する為に今回の法改正は大きな意味を持ち期待されていましたが、現状は逆効果と言わざるを得ません。
まるでガス会社は設備機器代を値上げによって稼いでいるのでしょうか。
4月以降は経済産業省へ法改正の効果を示す必要があると考えられます。法改正に至るまでには、経済産業省が主導する「液化石油ガス流通ワーキンググループ」が開催されてきました。第一回目は2016年2月から2024年1月までの計8回開催されてきました。料金透明化など、様々な問題をどう対処するか議論されてきたのです。これらの議論には当事者であるガス会社も参加していますし、日本LPガス協会、全国LPガス協会、エルピーガス振興センターです。また、行われた日程によって参加委員は違うメンバーのようですが、青山学院や国際大学、東京理科大学、甲南大学などの教授、消費者の声を汲み上げるための消費者生活相談員協会などが参加しています。
注目すべきは、参加しているガス会社です。
こうした委員メンバーとして、法改正が実施されたという事は、その効果を示す立場に他なりません。つまり、法改正を実行した事によって消費者負担が下がった事を示す必要があると考えられます。
法改正前の値上げ行為
ガス料金が急激に高まったのは2021年以降です。
2020年と2024年1月から3月までの価格を比較すると1.6倍程度の輸入価格が高騰している事がわかります。
しかし、料金が安いガス会社と高いガス会社を比較するともともと1.6倍以上の価格差が開いている状況でした。料金設定が安い場合の値上げは致し方ありませんが、元々が高いにも関わらず値上げする行為には賛同できません。
利益重視で値上げを繰り返してきた業界全体の問題点と言えます。
これらが常態化していたのは以上な業界と言えるのではないでしょうか。
現在の値上げするやり方や値上げ幅は、ウクライナ問題や新型コロナウィルスの問題などを言い訳にする事ができません。
ワーキンググループに参加しているガス会社は特に法改正の効果を示す必要があると考えられます。
その効果は消費者に対するガス代の負担軽減に繋がったのかどうかにつきます。利益がマイナスになる事を避けるため、法改正まで値上げを続けているのであれば悪質と言わざるを得ません。
当協会まで寄せられる関東エリアのご相談者様の中には、2500円を超える基本料金はほぼ聞かれませんでしたが、ここ最近のご相談は急増しており、消費者負担は逆に増加しているように見受けられます。即効性は無く今後の消費者負担が軽減されるか見守る必要がありそうです。
ガス会社の問題意識
エネルギーコストの上昇は新型コロナウィルス流行後から如実に現れ、LPガスも仕入れ原価が急騰しました。重ねてウクライナ問題や為替レートが円安傾向であり輸入情勢はガス会社を圧迫しています。
各社の動きをみていますと、ガス会社の様々な思惑が浮かび上がってきます。
一般的に考えれば、輸入価格の高騰はガス会社に不利になると考えられますが、一方では輸入価格以上の値上げを実施し利益を増幅させているのではないかと疑いを持たれても仕方のないガス会社が存在しています。
自由料金制度で運営されているガス会社は値上げも値下げも各社の経営方針で自由に決定する事ができます。消費者を欺くガス会社のやり方は、値上げはするが値下げはしない事や仕入れ価格の高騰以上の値上げ行為です。
つまり、言い訳ができる値上げのタイミングはガス会社にとって利益幅を増幅させるチャンスに成り得るのです。
CP連動と言われている輸入価格と紐づけているガス会社もいらっしゃいます。
経済産業省としては、このガス代高騰の背景にある大きな要因のひとつとして、無償貸与の見直しを打ち出しました。果たしてこれは効果的なのでしょうか。
また大家様や仲介業者にむけた紹介料も見直すべきと考えているようです。しかしこれらの是正には無理があるでしょう。都市ガスも電力もそれ以外の様々な業種において代理店や仲介業が存在しているからです。LPガス業界だけを特定的に禁止する事は違憲の可能性が高く、内容も非常に曖昧な言い方や見解を示されており、資源エネルギー庁は「期待する」に留めている理由だと推察しています。
大家様が抱える問題
これまで設備機器を貸与してもらっていた大家様は、これまで通りのサポートを受けにくい状況です。
もし大家様負担が増えれば利回りを低減させる事につながります。
大家様の負担が増え、予想していた利回りに上昇させる方法は家賃の値上げです。既に全国的に家賃は引き上げられており、実質賃金の低下の原因となっておりますが、さらに値上げする可能性が出てしまいます。
国民の負担軽減政策のはずが、負担増の予兆を感じています。
当協会の見解
ガス会社の負担分を減らし、その分のガス料金が安くなる事が本来の目的です。
しかし、根本的な解決にはならず逆効果を生む危険があると考えます。ガス会社が設備機器分を値下げするかは別問題だからです。
それは、設備負担が軽減されるイコール利益幅を増やせる好機と捉える可能性です。これまでのガス会社のやり方を鑑みれば素直にガス代が下がるとは到底思えません。
全国各地の大手ガス会社は、なぜ輸入価格が高騰している以上の値上げに踏み切っているのでしょうか。大手だから安心とは言えないLPガス業界の体質そのものが問題です。
ガス会社の体質をわかりやすく示したのは電力自由化がスタートした時です。電力の取り扱いを始めたプロパンガス事業者は少なくありません。ガスと電気のセット割引を謳った最大手のガス会社のやり方には唖然としました。セット割引ですからその分お得になるのですが、セット割引スタート前にガス料金の値上げに踏み切ったのです。予定されていたセット割引分のガス料金を値上げし、セット割引適応して元に戻る状態に見受けられました。
プロパンガスには基準価格はありません。もしこの基準値を強制する事があれば小さなガス会社は廃業に追い込まれるでしょう。
一番の問題点はこれらの設備貸与の是正よりも癒着談合の是正ではないでしょうか。
消費者が自由にガス会社を選択できない状況がガス業界の談合によって引き起こされている事の方が大きな問題です。
特に山間部や地方エリアではガス会社の選択肢が狭く、高いガス代が当たり前になっています。特に一番ひどいエリアは北海道、ついで東北エリアです。あり得ないほど高いガス料金が散見されています。
地域のガス会社同士がお客様の奪い合いを行わないよう協定を結ぶ事は、都心部以外の地方において解決すべき問題です。日本全体で常態化している癒着談合は拭きれません。
輸入価格高騰以上の値上げを実施している現状を鑑みれば法改正後、行政に示す値下げパフォーマンスには注意が必要です。